荻悦子詩集より~「薔薇の谷」 薔薇の谷 ひそかに 父の椅子を外して 始まった秋 大きな実がはじけ 鳥が群がる あらゆる方角で 歓声ばかりが大きく 熟れすぎてか 熟れないままでか 実はみずから あらわに皮を剥ぐ どこから取りつくにしても やがて 寂しい芯 いつまでも 胃を刺す黒い種 垂れた犬の耳が 鳥たちの落ちる地点を予測し 切り石の縁が 光を刃のように尖らせる その下に眠る人たち 震える葉むら 薔薇の谷 風の慰撫は素早い 荻悦子詩集「流体」より