荻悦子詩集より~「鳥」

鳥   鳥が 身体を垂直に 尾を下にしたまま 枝から落ちるように すとんと下がり そのままの姿勢で 元の位置へ昇ろうとする 胸の位置に 両足をたたみ 羽根は ほとんど広げず 身体を震わせ 三十センチほどの 垂直… 続きを読む 荻悦子詩集より~「鳥」

荻悦子詩集より~「空と湾」

空と湾   手すり 窓枠 壁 それらを逸れて 薄く 布切れのように落ちる影は 鳥のもの 岩陰では ウニが あと一晩の浅い息をつぐ 網袋に集められ 実験用です 触らないでください そう書かれた札をつけて 瑠璃色の… 続きを読む 荻悦子詩集より~「空と湾」

荻悦子詩集より~「空の球面」

空の球面 氷河の底が 光を湛えているだろう 碧色に盛り上がり ねじ曲がる 怒りと呼ぶには 済みすぎた魂 氷河に続く氷の原は どこまでも平らに見え 人がたったひとり 橇を牽いて歩いて行く その人がこちらを向き 微笑んでいる… 続きを読む 荻悦子詩集より~「空の球面」

荻悦子詩集より~「渓谷」

渓谷 行かないよ 四肢を拡げ 仰向いて 浮いている 膨らんだ 声と 声 冷ややかな真水 干乾しにされたのだった 身重のマムシは 隣人によって この時期 鉄錆色か黄土色の 柔らかい小石を探して 硬い石に 書いてごらん (の… 続きを読む 荻悦子詩集より~「渓谷」

荻悦子詩集より~「黄色の鯉」

黄色の鯉 欲しかった 過去形にして 黄色の鯉が 二匹 三秒前から この瞬間へ カーブの軌跡 近づいて 反り返り この瞬間 はっきりする 欲しかった あれは どうして それは このようです 葉書を 一枚 ふわりと飛ばして … 続きを読む 荻悦子詩集より~「黄色の鯉」

荻悦子詩集より~「冬の市」

冬の市 脂肪が焦げる匂いがする 勢いづいた音が跳ね オーブンの熱い排気口から ごく細く青い煙が揺らぎ出る 家の鶏は卵を産むでしょう 肉は固いから 食べたりはしない そんなさもしいことはしない でも そうする所もあるでしょ… 続きを読む 荻悦子詩集より~「冬の市」

荻悦子詩集より~「祖父の庭・十二月」

祖父の庭・十二月 納屋の 広い土間の隅 鳥の羽根が 紙の上にこんもりとある 触らないのよ 訝しげに言う母の声を遮って 一本だけ ね つやつやした羽根 赤茶色にさまざまな斑点があって 光の具合で色が変わる きれいな一本だけ… 続きを読む 荻悦子詩集より~「祖父の庭・十二月」

荻悦子詩集より~「燕」

  燕 浮いたとたん 狂ったような速さ 激しく沈み 急に向きを変える ああっ ぶつかってくる 思わず目をつむる人の 頭上すれすれに 数羽 やみくもに飛ぶ 曲がり角 きれいに反れ 生け垣の 繋がった枝葉より低く … 続きを読む 荻悦子詩集より~「燕」

荻悦子詩集より~「終わりの空」

終わりの空 丸い錫の写真立てに 入れておくのは 他人の冬 夢と呼ぶな 幻とも なつかしい なかった聖日 ここではない土地の 雪の降る祝日 椅子に上着を掛けたまま 人はわけもなく人を呼んで なごりの空を眺めに立った 裸木の… 続きを読む 荻悦子詩集より~「終わりの空」

荻悦子詩集より~「雨の午後のレッスン」

 雨の午後のレッスン 青年の方に首を巡らせ 自分の胸の辺りから 滞った空気を掬いあげるような目つきをして ピアニストが 曲の解釈を述べ立てている その根拠のほとんどは 同じ主題を扱った画家の絵や 言葉で書かれた… 続きを読む 荻悦子詩集より~「雨の午後のレッスン」